
案件者:70代 男性
事案概要
D氏は心不全により近医の病院に入院していたが、大腿骨骨折が既往にあり、寝たきりの状態であった。それ故、心不全に対して侵襲的な精査加療はせず、対症療法がメインの方針となり、ADLは全介助となっており、食事に関しても嚥下機能低下を認めていたため、流動食を摂取していた。また入院中に黒色便が認められたため、上消化管内視鏡検査が行われたところ、食道癌が発見された。診療情報提供書を作成され、回復期病院に転院となった。
回復期病院にて、ある日の12時ごろ看護師が昼食を下膳し、12時15分頃患者を訪室すると食事を嘔吐している状態で発見され、その時すでに呼吸停止となっていた。モニター装着をしたところHRは0であった。患者はDNRの方針となっていたため、14時25分に死亡が確認された。死亡診断書によると直接死因は窒息であった。
依頼者側としては、①本例の経過、病態及び機序、②栄養状態の態様(胃瘻造設等)について、③予後への影響を問題視していた。
考察
- 本例の結果、病態及び機序
直接死因については、嘔吐による窒息と考えられた。もともと慢性心不全で全身状態が極めて不良であり、食道腫瘍があったこともあって、嘔吐→窒息につながったものと考えらえられた。また、食道腫瘍については、この部分での通過障害を来したことで食べ物が逆流して窒息に至った可能性が考えられ、窒息への影響はあるものと考えた。
また、長谷川式簡易知能評価スケールが1点であり(きわめて低い数字であり)、おそらく自己の考えなどもうまく相手に伝えられない(思考できない)状態と考えられる。そのため、直接的な因果関係は否定できないが、むせこみなどの異常があっても、ナースコールを押すなどの行為ができたかは疑問であった。
- 栄養状態の態様(胃瘻造設等)について
胃婁増設については医療関係者の中でも賛否両論あるが、胃瘻造設自体にもリスクがあること、廃用が進行していて全身状態が極めて悪い終末期の状態であること、おそらく進行性の食道癌があって、認知症も強く自己の判断力が無い状態のため、胃瘻造設は実施しない可能性が高いと考えられた。(もちろん、胃婁造設すべきである、という医師もいる)
その他
診療情報提供書に内視鏡所見の結果を踏まえた判断が記載されてなかった。前医から適正に禁食の指示が伝わっていれば、転院先(回復期病院)でも禁食対応を継続し、本件のようなことが起きなくて済んだのかもしれない。
高齢化社会が進む昨今では、本件のような事象は今後も起こりうるであろう。